大空のサムライ―かえらざる零戦隊
戦争の実体験に昂揚するというのはどこか抵抗を覚えぬ気持ちがなくもないのですが、エースパイロットの自伝ですからそこはどこか心が沸き立たずにはおれません。
エースとして、心情を交えつつ大空を飛び回る描写に手を握り締め、
同僚との無邪気な交流に心を和ませ、
敵兵を敵としてではなく人間として見た瞬間の言い知れぬ感情に心を揺らがせ、
ラバウルからの生還では生と死の境界の描写に息を呑み、
眼球手術の生々しさはあまり心地よいものではありませんでしたが、
教官としての心配りに感心し、
一人の人間が戦場でどのように生き、死と背中合わせの日常で何を訓戒としていたのかというのは、終戦から半世紀以上過ぎた今でも軽視できるものではない、本質は同じなのだということを教えてくれます。


ところでこれはやはり続に続くんでしょうか。続があるのは知っていたのですが、大空のサムライ大空のサムライ一冊で完結する(文庫版は上下巻ですが、僕が手にしたのが昭和42年初版のハードカバーだったので。リンクは多分ハードカバーの方)と思い込んでいたところ、「去るもの、残るもの」で寂しさを覚えるくらい唐突にふっと終わってしまいました。
あとがき代わりの「空戦に学んだ自己統御」で昼間に星をも見通す視力の鍛え方を初めとして戦闘機乗りとしての心がけ、五感のトレーニングについては非常に面白かったのですが、あれで本当に終わりだったのでしょうか。自伝に綺麗な終わりを求めるのもどうかという話ですが、てっきり終戦辺りまでは触れるのではないかと思ってました。その辺り差し引いても十分に読み応えのある本であることに代わりはないですが。
ちなみに視力の鍛え方とは寝起きに緑のものを数分間見つめただとか、夜更かしや飲酒を避けただとか、遠目訓練として遠い山々にある樹木の枝まで見るよう目を凝らしたりだとか、そういった訓練です。

広告を非表示にする